学術情報

第70回日本産科婦人科学会 学会講演会
専攻医教育プログラム2 周産期 1

出生前診断

演者 昭和大学医学部産婦人科学講座 関沢 明彦 先生

1. 先天性疾患と母体年齢

先天性疾患と染色体疾患

先天性疾患は、出生児の3.0~5.0%に生じる。そのうち染色体疾患は約25%を占めており、その他の原因は、単一遺伝子疾患、多因子遺伝、環境・催奇形因子などが挙げられるが、妊娠中の超音波検査や出生後の評価でも判明しない場合もある。

母体年齢と先天異常児出生との関係

染色体疾患をもつ出生児をみると、21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー、13トリソミーの3 つで71%を占めることが知られている。また、母体年齢の高年齢化により、これら疾患の出生率が上昇することが知られており、少子化も相まり出生前検査についての関心が高まってきている。

2. 出生前検査の概念・倫理社会的問題点

出生前に行われる遺伝学的検査および診断に関する見解

2013年6月に日本産科婦人科学会が改訂・公表した、「出生前に行われる遺伝学的検査及び診断に関する見解」1)では、『妊娠中に胎児が何らかの疾患に罹患していると思われる場合や、胎児の異常は明らかではないが、何らかの理由で胎児が疾患を有する可能性が高くなっていると考えられる場合に、その正確な病態を知る目的で検査を行うことが基本的な出生前検査、診断の概念である』とされている。

妊娠中の超音波検査

「産婦人科診療ガイドライン産科編 2014」2)以降、超音波検査は、通常超音波検査と胎児超音波検査に分類されるようになった。通常超音波検査では、分娩予定の決定や胎児数・双胎の膜性・胎盤位置、胎児発育の評価、胎児健康度の評価等を行う。一方で、胎児超音波検査では胎児の形態的な評価を行う。具体例としては、無頭蓋症などの致死的疾患や、胎児胸水などの胎児治療の対象となる疾患、横隔膜ヘルニアなどの出生後の早期治療に繋がる疾患、後頚部浮腫(NT)等の染色体疾患との関連がある所見等について評価を行う。なお、妊婦の多くは、胎児の形態的な異常を認めた場合にその詳細についての告知を希望しているとの報告があるが、すべての妊婦が希望しているわけではなく、さまざまな意見をもった妊婦がいる。そのため、産婦人科医は胎児超音波検査を行う前には、致死的疾患や染色体疾患と関連のある所見が出てくる可能性があることについても妊婦に説明する必要がある。

母体保護法

母体保護法第14条第1項では、『妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの』『暴行若しくは脅迫によって又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの』に対して人工妊娠中絶を行うことができるとされている。また、胎児に“病気”や“障害”がある場合に人工妊娠中絶してもよいという胎児条項は、母体保護法には記載されていない。実際に胎児異常による人工妊娠中絶は、法律的には第1項第1号の経済的理由を適用して行われていることが多いという現状にある。そのため、出生前検査が結果的に人工妊娠中絶につながる可能性のある対象を選別しているという観点から、問題視する意見があることも忘れてはならない事実である。

医学における生命倫理の基本原則

Beauchamp & Childress(1994)によると、生命倫理には自律の尊重、善行、正義、無危害の原理があるとされている。一方で、出生前検査は胎児が人工妊娠中絶の対象となる検査であり、原理のうちの無危害と矛盾が生じるために生命倫理の基本原則に反するという意見もある。

生殖・出生前検査についての倫理的な視点

リプロダクティブヘルス /ライツについて初めて提唱されたのは、1994年にエジプトのカイロで開催された国際人口開発会議である。これは、人々が安全で満ち足りた性生活を営むことができ、生殖能力をもち、子どもをもつかもたないか、いつもつか、何人もつかを決める自由をもつことを意味している。この女性の権利をもとに、現在の出生前検査は「女性が、個人として人間らしい健康で幸福な生活を送るために妊娠・出産などについて自らが決定する権利をもち、その自己決定をサポートする」ために行われている。しかし、一方で胎児の人権も尊重される必要がある。現行法規では、胎児に人権はなく、母の付属物とされており、法的地位と倫理的地位にずれが生じている。胎児にとっても出生前検査は「胎児期に疾患を診断して備えることで、児の予後改善につながる」可能性があるため、出生前検査を考えるにあたり、法的視点、倫理的視点、女性の権利の視点はどれも重要なものといえる。

胎児治療

現在、様々な胎児疾患に対して胎児への治療が実施されており、現状で治療は難しいと考えられる疾患においても治療法が研究されている。例えば、胎児の染色体疾患についても胎児薬物治療や胎児幹細胞治療などが研究されており、実用の可能性も出てきている。胎児治療を然るべき時期に行って治療につなげることで、児の予後を改善できる可能性があり、胎児診断技術の進歩はその前提として重要である。

遺伝カウンセリングとインフォームド・コンセント

遺伝カウンセリング(Genetic Counseling)とは、遺伝性疾患あるいはその可能性をもつ当事者、家族、親族に対して生活設計上の選択を自らの意思で決定し行動できるよう臨床遺伝学的診断を行い、医学的判断に基づき適切な情報を提供し、支援する診療のことである。クライエントに対してカウンセラー(相談対応者)が時間をかけ、十分な理解・納得を求めながら、繰り返して行われる心理的支援を伴うプロセスである。
 それに対し、インフォームド・コンセント(Informed Consent)とは、患者が治療などの内容についてよく説明を受け十分理解した上で、患者が自らの自由意思に基づいて医療従事者と方針において合意することである。

遺伝カウンセリングとインフォームドコンセント

遺伝カウンセリング(Genetic Counseling)

遺伝カウンセリングとは、遺伝性疾患、あるいはその可能性をもつ当事者、家族、親族に対して生活設計上の選択を自らの意思で決定し行動できるよう臨床遺伝学的診断を行い、医学的診断に基づき適切な情報を提供し、支援する診療である。
 クライエント、カウンセリー(来談者)とカウンセラー(相談対応者)が時間をかけ、十分な理解、納得を求めながら、繰り返して行われる心理的支援を伴うプロセスである。

インフォームド・コンセント(Informed Consent)

医療行為などの対象者が、治療などの内容についてよく説明を受け十分理解した上で、対象者が自らの自由意思に基づいて医療従事者と方針において合意することである。
 説明の内容としては、対象となる行為の名称・内容・期待されている結果のみではなく、代替治療、副作用や成功率、費用、予後までも含んだ正確な情報が与えられることが望まれている。

3. 出生前診断の実際について

出生前遺伝学的検査の種類

胎児染色体検査法は、非確定的検査と確定的検査の 2種類に分類される。非確定的検査(非侵襲検査)は、羊水検査などの侵襲検査の実施に悩む場合に実施される検査で、初期 NT などの超音波計測や母体血清マーカー検査、コンバインド検査、母体血胎児染色体検査(NIPT)が該当する。
 確定的検査(侵襲検査)には、絨毛検査と羊水検査があり、採取した細胞の分析法は、染色体分染法、FISH法、CGHマイクロアレイ/SNP マイクロアレイなどが用いられる。羊水検査には 1/300~1/500 の、絨毛検査には 1/100 程度の流産リスクがあることが知られている。
 なお、検査ごとに実施時期や対象となる染色体疾患、限界、リスク等に特徴があるため、正確に妊婦に情報提供を行い、自身にあった検査を選べるようにサポートすることが重要となる。

非確定的検査(非侵襲的)

マイクロアレイ

G-band 法での検出限界は 3~10Mbの染色体領域の変化であり、それ以下の微小欠失・重複は検出できないが、マイクロアレイでは、50Kb 以下の変化(微小欠失・重複)やヘテロ接合体の消失(片親性ダイソミー)が診断可能である。
 超音波検査で胎児異常があるが、染色体核型は正常であった胎児の DNA 解析では、90.3%は正常であったが、3.0%で既知変化、1.5%で感受性遺伝子の変化、0.3%で Recessive deletion、3.6%で片親性ダイソミー、1.3%に臨床意義が不明な変化(VOUS:Variants of Uncertain Clinical Significance)が認められたという報告がある。米国産科婦人科学会(ACOG)では、胎児形態異常例における出生前診断として侵襲検査を行う場合には、マイクロアレイを推奨している。というのも、G-band 法に比べ、臨床的に意義のある変化を6~7%多く検出できることがあるからである。さらに、高年妊娠で染色体検査が正常核型であってもマイクロアレイを行うと 0.5% に臨床的に意義のある変化が検出されることから、米国母体胎児学会(SMFM)では、出生前検査として侵襲検査を受ける妊婦に対しては、マイクロアレイを選択肢として提示すべきであると推奨している。ただし、出生前検査でマイクロアレイの利用を考慮する際には、遺伝カウンセリングで検査のメリット・デメリットを説明し、妊婦およびパートナーの十分な理解のもとで実施の判断をすることが重要であることも記載されている。

4. 母体血胎児染色体検査(NIPT)の概要

NIPTの原理

NIPTは、母体血漿中の胎児由来cell-free DNA(cfDNA)を使用する。母体血漿中の胎児由来 cfDNAはその大部分が絨毛細胞に由来している。胎児由来の絨毛細胞がアポトーシスを起こし、絨毛間腔に剥脱し、それに由来する断片化された DNA が母体血漿中を循環している。なお、胎児由来 cfDNA を利用するメリットとしては、出産 2時間後には母体血中から消失するため前回妊娠の影響を受けないこと、体外受精症例では妊娠4週と早期から検出されること、さらに、母体血漿中の10~15%は胎児由来 cfDNA とされており、比較的高濃度に存在していること、等が挙げられる。
 この母体血漿中の胎児 cfDNA を用いた MPS 法での胎児染色体検査では、1,000万以上にも及ぶ DNA断片の塩基配列を解読し、それぞれの DNA 断片について既存のヒトゲノム情報から由来する染色体を識別する。その上で、症例ごとに各染色体由来の DNA 断片の量的な割合をみることで、特定の染色体の量的変化を検出している。
 なお、現在日本で行われている NIPTは、3 種類のトリソミーのみを検査対象としている。

海外での NIPTの原理 

■ MaterniT GENOME

通常のNIPTの2倍程度のDNA 断片を解析することで、ゲノム全体の微小な変化を検出する MaterniT GENOME検査が Sequenom 社によって 2015 年10月から開始されている。この検査では、性染色体を含む全ての染色体の数的異常や微小欠失に加え、7Mb 以上の染色体の微小重複が 95%の感度で検出可能である。

■ 母体血漿中cfDNA を用いた単一遺伝子疾患検査

母体が保有しない変異遺伝子をcfDNA中に同定することができれば、胎児に遺伝性疾患が存在することを意味しているため、胎児遺伝子診断が可能となる。実際に、欧米では頻度の高い遺伝性疾患に対する検査が開始されている。
 単一遺伝子病の検査対象疾患は多くあるが、実際の疾患頻度は低い。実臨床ではリスクのある妊婦が検査対象となり、スクリーニングとしての利用にはさまざまな意見があると思われる。

臨床研究データ

2013年4月より開始された臨床研究は、2017年9 月までの 4年半で 51,139 件実施された。検査の適応は 94.0%が高年妊娠であった。現在は、日本医学会から認定された施設において、21・18・13 の 3 種類のトリソミーのみを対象として行われている。21トリソミーの陽性的中率は96.6%であり、全体の陽性的中率も 89.6%であるため、精度の高い検査であると言える3)

出生前検査についての現状と課題

今後、少子化の進行と母体年齢の高年齢化により、出生前検査に関心をもつ妊婦はますます増加すると予想される。それに加え、各種情報の拡散や科学技術の進歩も伴い、妊婦に対しての遺伝カウンセリングや出生前検査の需要はさらに高まることが予想される。現在の周産期の遺伝カウンセリングは、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーがその役割を担っているが、すべての妊婦に対し、出生前検査について正確で適切な情報提供が必要と考えられる今、対応には限界が生じる。今後は、周産期医療に携わる医師が基本的な臨床遺伝学の知識を身に付け、正確で適切な情報や遺伝カウンセリングが提供できるようにしていくことが必要となるであろう。

出生前検査についての現状と課題

  • 全ての妊婦に対し、出生前検査についての正確で適切な情報提供が必要である。
  • 少子化の進行と母体年齢の高年齢化により、出生前検査に関心をもつ妊婦はますます増加している。
  • 高年妊娠の増加や各種情報の拡散、科学技術の進歩に伴い、一般妊婦に対する遺伝カウンセリングや出生前検査の需要はさらに高まるものと思われる。
  • 胎児に異常を指摘された妊婦に対し、今まで以上に積極的に遺伝カウンセラーが関与し、時間をかけた遺伝カウンセリング・心理的ケアが必要になる。
  • 周産期の遺伝カウンセリングを、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーのみが担っていくには、対象者が多く、限界がある。
  • 周産期医療にかかわる医師が、基本的な臨床遺伝学の知識を身に付け、適切な情報提供や遺伝カウンセリングが提供できるような体制を整備していく必要がある。
    研修会への積極的な参加が推奨される。
  1. 1. http://www.jsog.or.jp/ethic/H25_6_shusseimae-idengakutekikensa.html
  2. 2. http://www.jaog.or.jp/wp/wp-content/uploads/2017/01/img-31020320.pdf
  3. 3. NIPTコンソーシアムデータ